宇梶剛士『不良品:オレは既製品じゃない』(2003)を見つけ、購入。帯は「巨大暴走族の元総長が性格俳優になるまでの生き様」、ジャンルでいえばサクセス・ストーリー。宇梶氏といえば暴走族ブラックエンペラーの総長として2000人の部下がいたことで話題になった俳優である。ダウンタウンのTVなどに、よく出ている。とても読みやすく、あっという間に読了。
 ワルだった時代のエピソードが自慢気に語られるのを予想していたが、実際読んでみるとそのあたりのエピソードはアッサリしていた。自伝なので実際のところは分からないが、乱暴に要約すると、その気がないのに身体の大きさ(腕力の強さ)で周りに目をつけられ、理不尽なインネンや扱いに我慢ならずに対抗し、気が付いたら総長になっていましたという感じ。文章からは、実直な性格とそこからくる軽い天然さが見え隠れし、ホノボノさせられた。これが宇梶氏の魅力なのだろう。
 また、彼自身が書いているが、彼はアイヌの血をひいている。おそらく自らアイヌであることを公言している人のなかで、最も知名度が高い人物の一人であろう。ただ、それをウリにしているわけではないので知らない人も多い。本著によれば、宇梶氏の母親はアイヌの権利獲得活動に熱心で、家に戻らない日も多かったらしい。父親の単身赴任も重なった。このような家庭環境が、彼の少年時代に与えた影響について、宇梶氏はやや批判的に書いている。
 アイヌの権利復権運動に関する著書は多い。これは日本政府のアイヌに対する対応から考えて真っ当なものである。活動に携わった人々の自伝も多く出版されている。しかし、そのような活動に没頭する親を持った子供の気持ちを自然なかたちで著した本(自伝)はほとんどない。そういう視点から、ひとつのライフヒストリーとして読むことも可能である。